MENU

第14章【オーストラリアでのチン事故】

「トヨ、明後日オーストラリアに一緒に来てくれ」
 
突然の電話でした。
 
電話の相手は、アンディフグ選手のチームで一緒に練習していた、
 
マイケルマクドナルド。
 
マイケルはカナダ出身のキックボクサーで、
 
ずっと日本に滞在しアンディと一緒に練習してアンディが強かったのは、
 
彼がいたからだとも言われている強い選手です。
 
彼のパンチはとにかく速い。
 
絶対にこのパンチが今から来る。
 
と、分かっていても鼻の頭をガツンと殴られる。
 
アンディとは違ったタイプの物凄い強い選手です。
 
「オーストラリアの試合にセコンドが誰もいない。頼む、トヨ来てくれ」
 
 
キックボクシングは1対1のスポーツですが、
 
その選手をサポートする為に何人もの人が周りで動いています。
 
通常は1人の選手に少なくても2人。
 
アンディフグ選手クラスになれば5人以上が試合に同行します。
 
アンディの影の立役者だった彼は予算も無く、
 
1人しか試合に連れていけない。
 
試合自体が日程ギリギリに組まれたから、
 
更にその連れていく一人がギリギリになっても決まらない。
 
悲壮感たっぷりで電話してきました。
 
明後日にオーストラリアってそんな・・・
 
けど、彼を助けるためにOKの返事をしました。
 
バイト先は「もうこいつはしょうがない」で休みをくれました。
 
 
 
アメリカ経験とスイス経験もある。
 
今度は英語も通じる!大丈夫だろ!
 
やっぱり甘かったです。
 
どんだけ甘いんだ、俺(涙)
 
1人でプロ選手のセコンドをするなんて、ありえない話しでした。
 
その前にプロ選手のセコンドもしたことないんだから・・・
 
 
まずは成田空港から大量の荷物持ちから始まりました。
 
現地では英語が通じるとは言え初めての国で、
 
テーピングのための医療用の特殊はさみを買いにいくのは大変でした。
 
 
ホテルの食事は時間を確認して部屋で休む彼を呼びに行きます。
 
マイケルより後から食べる私は先に食べ終えて、
 
インタビューや取材、写真撮影などのスケジュールを
 
イベントスタッフと確認に行きます。
 
 
とにかく選手が試合以外のことを考えないで良いように配慮します。
 
試合前だから軽めとは言え練習もあるので、ミットも持ちます。
 
夜は選手をマッサージ。
 
3人は必要です、プロ選手のセコンド
 
全部1人でやりました。
 
 
この大会はミルコクロコップ選手(以下:ミルコ)が看板の試合でした。
 
ミルコと言えば、当時K-1を引っ張る選手でした。
 
日本でもアンディフグ選手に負けないくらいの人気選手、
 
と言えば彼の威力が伝わるでしょうか。
 
その看板選手、ミルコと対戦するのが、
 
私がセコンドをしているマイケル。
 
完全にミルコが勝つことが想定されています。
 
 
 
 
 
 
試合当日。
 
ミルコはお金があるから10人くらいのセコンドを引き連れて余裕顔です。
 
控え室でサッカーやトランプをしているミルコの笑い声がうるさかったです。
 
 
一方、不慣れなセコンドが1人いるだけのマイケル陣は、
 
試合前検査やマウスピースなど
 
試合に必要なものが足りているかの確認に焦りまくっています。
 
 
拳に巻くバンデージ巻きなんて私にはできないから、
 
マイケル自身がやって両手が塞がって自分ではできないところを
 
私が手伝って何とか終わらせました。
 
どんどん息つく暇も無く試合の順番が廻ってきます。
 
 
 
 
ここで豆知識。世界チャンピオンクラスになると、
 
このバンデージを巻くだけに1人の専門家が試合に同行します。
 
それだけで、何十万円のギャラを支払う位の専門職です。
 
この事からもセコンドという仕事が何人も必要なの事が分かります。
 
 
 
大会開始です!
 
 
マイケルの出番まで後、2試合!
 
ステージ裏。
 
バケツから何から全部持って焦りまくっている私です。
 
 
ここで、珍事故発生。
 
 
チン事故。略して・・・
 
 
あ、進みます。
 
 
 
グローブをつけて準備万端、ウォームアップも終えて、入場を待つマイケル。
 
試合をする彼よりも汗だくな私。
 
この試合の次がマイケルの入場です。
 
 
 
マイケル「トヨ・・・、トイレ行きたくなっちゃった」
 
私「あそ。」
 
マイケル「いや、だからトヨ。おしっこしたいのよ」
 
私「早く行って来なよ。あー、緊張する・・・。あー!」
 
マイケル「トヨ・・・。頼む・・・」
 
 
飲み込めない方に解説です。
 
キックボクシングで使う試合用ボクシンググローブ。
 
練習用とは違い試合となると、
 
装着するのに不正が無いかチェックをした後、
 
手首からグルグル巻きにテーピングします。
 
要するに、一度つけたら、もう試合が終わるまで外せないんです。
 
 
あー、もう!まだ分からない方にもっと解説です。
 
ボクシンググローブを両手にはめていたら、
 
男性とは言え、用が足せないんです。
 
パンツの下だって、金的ガードがヒモできつく縛ってあります。
 
さらに分からない方用にもっともっと解説です!!!
 
 
 
要するに彼のアレを誰かが操作しないと、
 
彼は用を足せないわけです!
 
 
これでも分からない方用に・・・
 
もう解説は無いです。(笑)
 
 
 
私たち2人きりのバックステージ。
 
私はもうやるしかないと、意を決して、
 
彼の試合用トランクスを優しく脱がし・・・
 
男らしい金的ガードをそっとはずし・・・キャー!
 
これ以上は言えません!用を足す彼、支える私。
 
 
「選手を支える」のがセコンドだとは聞いていたが、
 
「選手のを支える」とは聞いとらんで、おい。
 
 
とにかく今、会場で行われている試合が
 
KO決着ですぐ終了しないようにだけ願いました。
 
今、リングで戦っている選手、二人とも頑張れ~、倒れるな、とにかく!
 
何、この応援・・・
 
 
 
そして、そこにある会場のゴミバケツに済まさせてしまいました。
 
会場スタッフの方、ごめんなさい。
 
「済まさせた」って日本語、なかなか使う場面無いと思います。
 
私の人生で最初で(是非とも)最後(にしたい)、
 
男性のを触ったチン事故でした。
 
 
 
 
準備万端(笑)で挑んだ試合。
 
無名選手マイケルの入場には会場の観客はほとんど反応しません。
 
後ろに私が1人歩いていくだけで見た目も寂しい。
 
強いとされるほうが後から入場するのが格闘技です。
 
ミルコの入場を
 
先にリングについた私たちは準備をしながら見ています。
 
観客総立ちです。大歓声。大人気のミルコです。
 
 
 
ゴングが鳴り試合開始です。
 
 
私はとにかくマイケルのガード(腕)が下がっていないかだけチェックして、
 
その指示を出すのが約束でした。
 
私みたいのがとやかく言えるわけも無いから。
 
 
マイケルの動きも悪くないです。いつものスピードがある。
 
1ラウンド終了間近。
 
 
あ!ラウンド間の休憩中にうがいできるように、
 
バケツを手元に用意するんだった。
 
 
足元にあるバケツを取るのにかがんだ瞬間。
 
グォオオオオオオ!会場が割れんばかりの歓声です。
 
バケツ持って立ち上がり、リング内を見ると、
 
マイケルがニュートラルコーナーで待ち、ミルコが倒れている!
 
おいおいおい!ここまで来て、全部やってきて、
 
決定的瞬間見逃すってか!!!
 
こんな特等席でその瞬間だけを見逃すって・・・(涙)
 
ま、人生ってそんなもん。
 
 
マイケルが勝ちました!(涙)1ラウンドKO勝ち。
 
 
後でビデオで観るとマイケルの電光石火のフックが
 
ミルコのアゴを打ち砕いていました。
 
 
大歓声の退場の花道は最高に気持ち良かったです。
 
控え室に戻って、2人きりで抱き合ったあの感動は今も忘れないです。
 
マイケル、ありがとう。
 
その夜、2人で遊んだメルボルンの街は最高に楽しかっです。
 
 
窪田豊彦
 
オーストラリア大会サポート終了帰国。
 
「とよ先生」まで後4年4ヶ月
このオーストラリアの経験で、私は試合で選手をサポートすることを
 
とても良く学び理解できました。
 
e-kidsでもその経験は使われているはずです。
 
キッズがお漏らししちゃったくらいじゃ、ビクともしません(笑)
 
そしてこれがその大会の動画です!!!