第6章【人生初めての挫折】

夏合宿 キャンプイン。
 
夢にまで見たアメリカでのアメリカンフットボール。
 
ワクワクとドキドキの楽しい気持ちなんて
 
一瞬で打ち砕かれました。
 
初日のテストは40ヤード走から。
 
3本ダッシュしてベストタイムを計ります。
 
次にここで計ったベストタイムに0.7秒を足したタイムを、
 
16本のインターバルダッシュで、12本クリアしなければいけない、
 
というテストをします。
 
 
とにかく辛かったです。
 
脱水症状で倒れて私はクリアできませんでした。
 
その後は、ウエイトルームに移動して、
 
ベンチプレス、スクワット、パワークリーンの
 
マックス(最高重量)計測。
 
トレーニングをやったことがある人なら
 
分かってくれると思いますが、
 
この3種目のマックス計測だけでもかなりハードです。
 
 
そりゃそうですね。
 
2部(正確にはDivisionI-AA 現在はFCS)の大学とは言え、
 
みんな高校でアメリカンフットボールはもちろん、
 
野球、バスケットボール、陸上、レスリング、
 
いろいろやってきて、
 
「よし!俺は大学行ってアメリカンフットボールやるぞ!」
 
って選手が集まっているんだからレベルが低いわけが無いんです。
 
 
初日はこんなテストやミーティングで時間が過ぎていきました。
 
ダッシュのテストをクリアできなかった私は、
 
ペナルティの早朝ランがあるので、
 
次の日は5時30分に起きなければいけませんでした。
 
 
もうこの時点で筋肉痛で体がしっかり動きません。
 
脱水症状の影響で気分も悪いです。
 
朝6時にはフィールドで1マイル(約1,600メートル)走の
 
準備をしていなければいけません。
 
片付けまでいれると 6時30分くらいまで早朝ランに費やします。
 
7時から朝食です。
 
すぐに食堂に戻っても、
 
ペナルティの無い選手の食事が既に始まっています。
 
 
夏合宿には1年生約50人、2年生30人、3年生25人、4年生20人、
 
合計100人以上が参加しています。
 
食堂にアメリカンフットボール選手が100人以上集まります。
 
もの凄い熱気です。
 
日本のような年功序列が無いアメリカとは言え、
 
強い選手が先に、並んで朝食を手にしています。
 
強い選手=4年生がほとんどだから、結局は年功序列。
 
 
コーチや上級生が指示の時に叫ぶ
 
Freshmen!!!(フレッシュマン=1年生)
 
って響きが
 
力のない新人って感じがするのは気のせいでしょうか。
 
私たち1年生がやっと朝食を手にするころ、
 
4年生は朝食を終えて練習の準備に向かっています。
 
すでに心身ともに疲労困憊でなんとか食事を終えます。
 
アメリカンフットボールの装備を全て準備した状態で
 
朝9時のミーティングに出席しなければいけません。
 
 
この準備した状態っていうのがポイントで、
 
装備するものがたくさんあるのがアメリカンフットボール。
 
手首足首とテーピングをしておかないといけない箇所もあります。
 
ちなみに合宿中はアメリカンフットボール部だけで
 
新品のテーピングが1日100個消費されます。
 
 
このミーティングの時点で既に汗だくです。
 
この年はまだ宿舎にもエアコンはありませんでした。
 
冬はマイナス10度より下回る事もあるアメリカ中西部。
 
夏は40度を超えます。
 
ミーティングでその日の練習内容が告げられます。
 
初日に配られたプレイ(作戦)ブックの中から
 
毎回のノルマを暗記しておくのも選手の義務です。
 
 
9時30分にフィールドのゲートを通過する時は、
 
必ずヘルメットを被って入らなければいけない規則がありました。
 
アメリカは自由なイメージだけが先行しますが、
 
こういう儀式的なものって結構ありました。
 
 
ヘルメットの中から芝生の景色を見ながら、
 
気力を絞ってなんとか「夢を掴んだぞ!」って思いました。
 
辛くてそれどころじゃなかったけど、
 
そう思わなければなんか悲しかったから。
 
炎天下の中2時間の練習。
 
 
 
辛い。
 
激しすぎる。
 
身長184センチ 97キロの体で、
 
190センチ以上、110キロ以上の相手と
 
ぶつかり続けなければいけません。
 
 
日本では自分より大きい人とぶつかったことなんて
 
一度もありませんでした。
 
ミーティングで与えられた課題も記憶から無くなります。
 
 
練習の最後はいつもダッシュ10本です。
 
ビリで終えて午前中の練習が終えました。
 
 
 
アメリカンフットボールってこんなに辛いんだ・・・
 
 
 
ランチを食べて午後1時30分にはさっき脱いだばかりの
 
汗だくの防具を持ってミーティングに出席です。
 
午前中の練習がビデオに撮られていて、
 
それを見ながら課題をまた与えられます。
 
 
午後は気温も高くなっているので午前の比にならない位辛いです。
 
とにかくぶつかる相手がみんな自分よりでかい。
 
そして足が速い。
 
辛いけど気を抜いてぶつかると大怪我をしてしまう。
 
 
吹っ飛ばされながらも生きた目をする。
 
それだけで精一杯でした。
 
 
練習は2時間ですが、
 
着替えや片付けなどがテキパキできるほど身も軽くなく、
 
1時間くらいかけてやっと寮に戻ったら、もう夕飯でした。
 
また100人以上の列の最後尾に並ばなければいけません。
 
夕飯後は、全員ジムでウエイトトレーニング。
 
 
 
 
俺が日本でテレビで見た、
 
あの楽しそうなアメリカのアメリカンフットボールは
 
なんだったんだ。
 
 
 
私が初めて知り合ってトレーニングを教えてくれた選手。
 
例のエースWRはこの辛い合宿中にコーチと笑いながら話しています。
 
アメリカまで来たけど、
 
憧れの世界ははるか遠くにありました。
 
 
その日の夜、私は1人シャワーを浴びながら泣きました。
 
寮生活の中、
 
唯一泣いているのがバレない場所がシャワー中だったから。
 
「なんでこんな辛いスポーツを好きになってしまったんだろう。
 
もう辞めたい。
 
帰りたい。
 
寝るのが怖い。
 
起きたらまた早朝ランだから。
 
あんなに憧れたアメリカがもうイヤになっている。
 
あんなに頑張って留学準備したのに。
 
やっと夢を掴んだのに。
 
もう逃げたい。
 
なんて弱いんだ、俺」
 
自分はこんなに弱いんだと思ったら涙が止まりませんでした。
 
 
今まで流したことの無い初めての涙でした。
 
 
18歳 初めての挫折でした。
 
 
就寝時間間近、
 
寮の窓から外を見ると
 
1年生が何人も荷物をまとめて寮の外に座っていました。
 
「何やってんだよー?」私が聞くと、
 
「親が迎えに来てくれるんだ」と、
 
仲良くなったばかりの同期のチームメイト。
 
だから新入生は50人もいるのに、4年生は20人くらいしかいなんだ。
 
もし、私も迎えに来てくれる親がいたなら、
 
迎えを頼まないでいた自信は無いです。
 
合宿中に1年生の数は50人から半分近い30人程度に減ります。
 
それでも朝は来ます。炎天下の中、早朝、午前、午後、夜。
 
1日4セッションの練習。
 
10日で私の体重は10キロ減りました。
 
逃げる場所が無かったから、私の初めての合宿は終了しました。
 
こうして、
 
私のアメリカでのアメリカンフットボール生活が始まりました。
 
合宿最終日に撮られる集合写真。
 
4年分4枚が今では私の宝物です。
イメージ 1
(上から2段目、左から4番目:公式戦でQBサックを記録した年の夏合宿最終日 1997年)
言語が英語だったことなんて気にもならない、
 
全てが辛い合宿でした。
 
 
窪田豊彦 184センチ87キロ
 
 
 渡米3ヶ月、初のアメリカンフットボール夏合宿終了。
 
「とよ先生」まで後11年
 
 
こんな世界でも私が誰にも負けないことがありました。
 
それは、食べる量。
 
ある時、食堂で、選手全員、コーチも、ピタ!と手を止めて、
 
私の山盛りスパゲティー食べる姿を呆然としながら見ている。
 
「日本人はそんなに飯を食うのか?」と、チームメイト。
 
当たり負けしないようにとにかく食べました。
 
逃げる場所が無かったから。
 
第6章 【人生初めての挫折】
最後まで読んで下さりありがとうございました。
アメリカンフットボールを引退する場面のお話しに続きます。